今、初めての裁判員裁判が行われています。
 報道される裁判員の皆さんの質問をみると、誠実かつ真剣に職責を果たそうとされていることが感じられます。
 がしかし、それはそれとして特にNHKの報道について少しひっかかるところがあります。

 昨日、今日と、夜の9時からのNHKのニュースを見ていますと、山形晶という「社会部司法担当」という肩書きの記者の解説がかなり鼻につくのです。
 簡単にまとめると、山形記者は、裁判員は裁判のプロである検事や弁護士や裁判官がしないような質問を市民感覚でしている、つまり裁判員制度の導入により、裁判がより深く真相に迫ることができるようになったかのような説明をしているのです。

 しかし、裁判員がした質問というのを聞いてみると、普通の検事、弁護士、裁判官であれば誰でも思いつく質問なのです。
 記憶に基づく話ですので正確ではありませんが、例えば、今回の事件の凶器について、裁判員が「なぜ、娘の形見のナイフを凶器として使ったのか?」という質問をしたそうですが、山形記者は、

 プロは、凶器の大きさや形状などについて質問はするが、このような質問はしない。

と言うのです。

 私から言わせれば、「バカを言っちゃいけません。知ったかぶりもいい加減にしなさい。」というところです。
 プロなら大抵の人が思いつく質問です。
 但し、検事や弁護士は当事者ないし当事者側の立場ですから、思いついたからと言ってなんでも質問するわけではありません。
 その質問に対して予想される答が、自分の側に有利なものか不利なものかを考えて質問するかしないかを決めます。
 有利な答が返ってくるか不利な答をしてしまうか予想がつかない場合もあります。
 プロは、その場その場で総合的な情報処理の結果として質問するかどうかを考えているのです。
 裁判官は、有利不利にかかわらず自分が疑問に思ったことを質問しますが、裁判員裁判では、まず裁判員が疑問に思ったことを裁判員から質問してもらうという運用をしているはずですから、当然、裁判官の前に裁判員が質問することになり、裁判官としては同じ質問はしないことになります。

 山形記者は、このような事情を分かっているのかいないのか分かりませんが、裁判員制度によって刑事裁判がよくなった、という印象を過剰に生じさせようとしているのではないかという疑念が浮かんでいます。

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罵詈雑言雑記帳 - 裁判員裁判 (2009年8月 6日 14:24)

最初の裁判員裁判の判決は今日の午後下されます。 で、よくよく考えてみると裁判員裁判対象事件は日々起こっているわけで、そうこうしているうちに2号3号と続い... 続きを読む

コメント(19)

「裁判員制度によって刑事裁判がよくなった」
という印象操作を否定することによって
「裁判員制度によって刑事裁判がよくなってはいない」
という印象を与えかねないということも考慮なさったらどうでしょうか?

重要なのは裁判の結果が劇的に代わることではなくて、
「市民のコンセンサス」だったりすると思います。

モトケンさん

>しかし、裁判員がした質問というのを聞いてみると、普通の検事、弁護士、裁判官であれば誰でも思いつく質問なのです。

モトケンさんの感覚では「誰でも思い付く質問」なのかもしれませんが、少なくとも被告弁護人の伊達俊二弁護士は閉廷後の記者会見で、『「娘の形見のナイフを使うのはなぜか」と、これはわれわれ法律家では出ない質問』と明言されています。

この記者会見のビデオは、NHKの裁判員裁判の特集サイト(URLは下記)にある「8月5日16:55放送の動画」を再生すると、スタート後1'41"(画面左上の放送時の字幕では4:56過ぎ)あたりから出て来ます。
http://www3.nhk.or.jp/news/saibanin/

私自身は昨夜の9時からのNHKのニュースを見ておりませんし、山形晶記者の解説を見てはおりません。ですが、少なくとも被告弁護人である伊達俊二弁護士の会見ビデオからは、「プロなら大抵の人が思いつく質問」ばかりであった、とは受け取れなかったとの印象を持ちました。

なお、裁判員制度によって刑事裁判が良くなる筈だ、或いは折角の制度導入で良くならなければならない、という記者自身の個人的な思い入れや、或いは制度評価に対する予断を前提にしての解説と受け取れるコメントが、実際に山形記者によって行われたとしたら、それは不適切だと私も思います。

裁判員制度の裁判が実際に行われて、刑事裁判になにがしかの変化が現れるのは確かでしょう。しかし、その変化が「良いこと」として肯定的な評価が出来るのか、或いはネガティブな評価を下さざるを得なくなるのか、それは今回の裁判員裁判第1号に続く、数多くの裁判員裁判での結果を見てから「良くなった」か否かを評価すべきです。

実施前の裁判員制度設計の趣旨や、裁判員法の事前研究が過ぎて、当該NHK記者が「裁判員制度で刑事裁判は良くなる筈」という思いを強くし、その思いが放送の中での解説コメントに滲み出てくるのであれば、報道記者としての素質を疑わなければなりません。

裁判員制度が良い変化をもたらすのか、或いは刑事裁判をねじ曲げてしまうのか、全てはこれからです。事前の制度設計論議や模擬裁判では出てこない、やってみなきゃ分からないことは沢山ある筈です。肯定にしろ否定にしろ、評価を基盤とする論評は、現時点ではまだ早いと思いますが。

>通りすがり さん

 誤導になりかねないNHK記者の解説を批判してはいけないのですか?
 それに私は、これまで裁判員制度に対する懸念を度々表明してきましたが、今回の裁判員裁判自体については、このエントリでは何の批判もしていません。
 私がこのエントリで批判したのは、裁判員制度全体でもなく、今回の裁判員裁判でもなく、今回の裁判に関するNHK記者の解説です。


>法務業の末席 さん

モトケンさんの感覚では「誰でも思い付く質問」なのかもしれませんが、少なくとも被告弁護人の伊達俊二弁護士は閉廷後の記者会見で、『「娘の形見のナイフを使うのはなぜか」と、これはわれわれ法律家では出ない質問』と明言されています。

 おや、そうなんですか。
 検事経験者である私の感覚では、娘の形見のような被告人にとって特別の意味のある物を殺人の凶器として使ったのであれば、「それはなぜか?」という疑問は当然のごとく生じます。
 伊達弁護士には失礼な言い方になりますが、行為当時の被告人の心理を追いかけていけば疑問が生じないほうがおかしいとも言えます。
 さて、伊達弁護士と私以外の刑事事件の経験がある程度ある法曹諸氏の感覚はどんなもんでしょうか?

伊達弁護士の記者会見での発言は、ビデオでは前後を切り取られていますので、何とも断定しかねるのですが。

私は伊達弁護士の発言は、ある意味で「記者会見でのリップサービス」が含まれていると感じます。

記者会見では当然ながら、法律家でない裁判員からの質問をどう思いますか?、などの記者からの質問に答えての発言でしょう。

裁判員さんの質問は、どれもこれも経験を積んだプロ法曹なら思い付くことばかりで、なんら新味はありません。

まさか、このようには答えにくいだろうし。何とか違いを見付けてコメントしようとした伊達弁護士の、一種のリップサービスだと思うのですが・・・。

ただ、この発言をリップサービスと受け止めてニュース解説する司法担当の報道記者と、発言を文字通りに受け止めて解説してしまう報道記者と、司法に対する記者自身の理解度を測るバロメーター代わりにはなると思います。

私も、NHKの報道は、鼻についています。一面のみを取り上げて、それがさも真実であるかのような断定をしているように感じます。

「プロは、・・・このような質問はしない。」も、その例であり、「・・・のような意見もあります。」と、正確に報道できないのかと思います。

報道の恐ろしさは、例えば、伊達弁護士のインタビューも、これを見た人は、弁護士・法曹関係者全てがそうだと思ってしまう。(最も、実際に話した前後をつなげると、ニュアンスが異なる可能性もあり、断定は避けます。)TV報道とは、ある一面だけを切り取っているに過ぎない。そんなことを分かっていながら、私もTVの報道に、よく怒りを感じています。

こんなことではよくないな。分かっている以上、自分のそれなりの対処を心がけねばと思います。せいぜいブログで、主張するぐらいでしょうか?

東京地裁の裁判員裁判の取材中です。一言だけ書かせて頂きます。
裁判員の「娘の形見」発言についてですが、伊達弁護士だけでなく、地検も「被告人質問での質問事項は、数百問を考えた。裁判員からの質問もほとんどはこちらで検討したものだったが、形見の質問だけは考えていなかった」と言っています。

モトケンさんの

プロなら大抵の人が思いつく質問です。
という断定的な書き方は、疑問に思いました。

a.何故に形見の品を使用したか?
b.何故に(当該証拠品のような形態の)刃物を使用したか?
私は当該質問の主意と評価について、自分が裁判員として関与していたとすれば、評議に当たって上記どちらの視点で考えるか?という事を考えながら報道に接して居ました。

ところで、弁護人でいらっしゃる弁護士先生の発言と、上で新聞記者A様がご紹介の検察関係者発とされる発言についてです。私が複数の報道を視聴する限り、弁護人側と検察側の双方が「意表を突かれたと感じているというニュアンスのコメントをしているらしい」という様に、私には受け取れました。多くの番組では弁護人の発言だけを報道していましたが、検察側の見解と称して報道している番組もありました。事の性質上前者には映像があるが後者には映像はありませんでしたので、後者は記者の口を経由した形ではありましたけれど。両者の当該見解の裏に如何なる背景事情・発言者の心情があるのかは判りませんけれど。

それは別として、今回の日本放送協会(NHK)様の報道姿勢、特に「同時進行」と称して細切れに実況的番組を織り込む番組編成については、疑問を感じています。まぁ初めての裁判員裁判と言うこともあって、取材者として「今回の裁判員裁判の過程で良かったという印象を抱いた点を伝えたい」という意向そのものは、判らなくもないです。

>という断定的な書き方は、疑問に思いました。

 私も全法曹にアンケートを取ったわけではありませんし、自分自身はそんなに変な法曹ではないと思っていますので、プロと言えるほどの経験を積んだ法曹なら私と同じような疑問を感じるだろうと思ったのですが、現在の法律家の実情はそうではないかも知れません。
 または、法務業の末席さんが言うようにリップサービスかも知れません。

 山形記者としても、プロの発想はパターン化しているのではないか、という疑念があるのかも知れません。

そのようなことを踏まえて言い直しますと、

 「プロなら大抵の人が思いつくべき質問です。」

というのが適切なようです。


 ところで、若干余談になりますが、

地検も「被告人質問での質問事項は、数百問を考えた。

 この「地検」というのが誰のことなのか(次席なのか公判部長なのか立会検事なのか)はっきりしませんが、いずれにしても私には、事前に質問事項を数百問考えるという発想はありません。
 問題点または疑問点としての質問事項(問題点のタイトルまたは要点のようなもの)を幾つか(本件では10個にもならないのではないかと思いますが)考えておいて、個々具体的な質問事項は法廷での被告人の回答に即応してその場で考えます。
 あらかじめ数百問の質問事項を考えるという発想自体が裁判員裁判にマッチしないものではないかと思います。

 前に「有能な刑事法の実務家は,謎々坊や(クエスチョンエイジ)だ。」という元検事現弁護士兼教授の講演を聞いたことがあります。
 それは,着眼点が
(1) なぜ,この時期時間帯を選定したか?
(2) なぜ,この場所を犯行場所に選んだか?
(3) なぜ,この人を被害者に選定したか?
(4) なぜ,この凶器(素手を含む)を選んだか?
(5) なぜ,この犯行手段方法を選んだか?
(6) なぜ,犯行直前にこんなことをしたか?
(7) なぜ,犯行直後にこういう行動をとったか?
(8) なぜ,被告人が犯人なのか?
…………
というものだそうです。
 これらが全て質問されてPS化されて裏付け捜査で解明されていたら有能な検事だそうです。逆にこれらの点を突いて反対尋問したり弁論で合理的疑念の立証に成功したら,それは有能な刑事弁護士であるということらしいです。
 今回の報道は,前記(4)を思い起こすと,一部の実務家は無能だと報道しているような(以下略。

久しぶりに書き込みます。

なんだか、何も変わってないと感じますね。大方の予想通りの判決ではないでしょうか。

結局一人じゃ死刑にならない。もっと酷い殺し方をしなければ求刑すらしないんですね。

別に今回の事件が死刑に相当するかと問われればそうとは思わないんですが、何で始まりが16年の求刑なんでしょうか。死刑から初めて、段々と情状酌量を酌んで量刑を下げていけばと思う。無駄を省いて16年なんだろうけど何か解せない。

そりゃ判例は大事なんだけど、何のために民間人を参加させてるんでしょうか。殺され方や卑劣さで求刑決められちゃたまんないね。殺したい奴がいれば、スマートに殺しちゃえばこの程度なんだもんね。ネコも杓子も死刑判決ってのは反対だけど、スタートは死刑からで良いと思うんだけど。

というか検察が求刑16年って言ってるのに、いや、死刑だろなんて民間人が言えるんだろうか?やっぱり専門家に促されて落としどころに落ちてるだけって印象が。

裁判員に一つ聞いてみたい。検察の量刑に疑問は感じなかったのかと。。。

ゲン 様

というか検察が求刑16年って言ってるのに、いや、死刑だろなんて民間人が言えるんだろうか?やっぱり専門家に促されて落としどころに落ちてるだけって印象が。

私もゲン様と同じ印象を感じたのはたしかでした。
しかし、刑罰を追求する国家の代表としての検察側(専門家)からの求刑ですので、「16年」を基準に考えるのは致し方無いことなのではないでしょうか。
その提示された求刑に対して、評議して行くと思いますし、裁判員の力量を鑑みても、一定の指標は必要だとも思います。そして、時には上回る事もあるかもしれません。(上回る事は異例だと思いますけど)

殺意を持って殺人を犯してしまう犯人は檻の中へなるべく長く入れておきたい気持ちはあります。
スレチだと思いますけど、今回の判決文の中で殺意を「強い攻撃意思」という表現だったようですが、どの程度の殺意の認定としたのかちょっと気になりました。

 今回は,裁判所の量刑データベースも使われたみたいですので,検察庁の求刑16年や被害者代理人弁護士の求刑20年だけが指標になったわけではなないように思います。

感想1
「事故」は起こらず、全て想定の範囲内で終了。第1回目はそうなりそうな事案を選んだのかもしれないけれど、なんかつまんない(不謹慎)。
感想2
「形見のナイフ」質問は当該検事・弁護士が考えていなかったというだけで法曹でもする人はすると思う。特に検事の取調べや弁護人の接見でこういう質問をすることは大いにありうるのでは。
感想3

被告人質問での質問事項は、数百問を考えた
なんかスゲーマニュアル主義というか・・・検事って暇なの?税金返s(ry
感想4
ま、色々と事例を積み重ねてみないとまだ分かりませんね

量刑に関するご意見は、別エントリ(裁判員裁判で判決)にお願いします。

>ろくろくびさん
>なんかスゲーマニュアル主義というか

 そう、そんな感じがするんです。
 だから、形見を凶器に使うことに何の疑問も浮かばないのだろうと想像しています。

キメイラ 様

補足説明ありがとうございます。

>ゼロ+Oさま

 いえいえ。(^^ゞポリポリ
 モトケン先生の誘導がありましたから,量刑談義は別スレに移動して続けましょうか。

被告人質問での質問事項は、数百問を考えた

うーん・・・・裁判員裁判の初回だって言うんで身構えて、株主総会の想定問答集みたいな検討をしたのかなあって気はするんですけど、なんかズレてる気がするなあ。というか、ある意味裁判員をナメてるというか・・・・。

ちなみに娘の形見を凶器に使った云々についての被告弁護人会見と検察コメント双方ニュースで見ましたが、率直に言ってそのときの感想は「え?本職の法曹ってそんなに××(あえて自粛)な人たちばっかなの?」でしたね。
それがホントだとしたら、テレビの2時間サスペンスに出てくる探偵まがいの弁護士だとか芸者探偵だとか事件記者冴子だとかの活躍する余地が現実にもあるってことじゃん!なんて。

いや、警察調べか検事調べの段階では出てるんで、実は既に調書化されてるんで公判廷では聞かないだろっていう意味である可能性もないとは言いませんけども。

・・・と、すみません。NHK報道についてのトピックでしたね。

ことNHKに限った話じゃないんですが、視点の設定がちょっとなぁ・・・と思って見てました。

私の興味の中心は、専門訓練を受けていない(あるいはリーガルマインドや、法的ロジックについての学部における一般教養水準の教育を受けていない)ごく一般の市井の人が、事実認定や犯意の評価に際して「なにを材料として、どこに判断基準を置き、いかなる論理性・論理的強度を持って」結論を出すのか、そして検察側・被告弁護側はどのような材料をどのように提供するのか、にあったわけです。
それが、従来の仕組みと新制度との最大の相違点になる部分であると考えたからなのですが。

見た限り、そして私が受けた限りの印象では、どの社の報道も力点が「もしあなたが選任されたら、裁判員はこういうことをやるんですよ」というお仕事紹介、そしてイマイチ目の焦点が定まらぬままにダラダラと実況中継をしていただけ・・・という、大変に物足りない――というのは控えめに過ぎるのでキッパリ言ってしまうと「本来的に“報道”が追求すべきポイントとはまるで違うことを一所懸命に取材している」ような感じがありました。

NHKに限らづ、今回の裁判をマスコミは大きく報道して裁判員制の認知を高めようとしたみたいです。
また、裁判員制で刑事裁判がよくなったという印象を過剰に生じさせるような報道をしたとしても、それはそれぞれの報道機関の編集権の範囲で問題のない話です。
そのようにして報道されたことに専門家が気が付いたことを意見として表明するのは、NHKの編集方針の良し悪しとは関係なしに良いことだと思います。

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